奥様は同級生






 むかしむかし、ではなく今は現代。
 とある小さな街に、一組の夫婦がいました。
 旦那の名前は(高科雄治/たかしな ゆうじ)。
 妻の名前は(高科加奈/たかしな かな)。
 それはもう仲睦まじく、三歳になる娘、(夕奈/ゆな)と共に幸せに暮らしています。
 家庭は円満ですが、ただ一点だけ問題がありました。
 というのも。

 高科雄治、十七歳。緑乃森学園2年B組生徒。
『爆睡王』の異名をとるクラス一のグータラ男。

 高科加奈、十七歳。緑乃森学園2年B組生徒。
 成績優秀、美人でクラスでも人気の高い学級委員長。

 あんど。
 高科夕奈、三歳。緑ケ丘幼稚園星組。
 雄治と加奈の愛の結晶、しっかり者の幼児。

 そう、彼らはまだ、現役の高校生なのでした――。

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「…………」
「…………」
 夕食の席で、高科雄治とその娘、夕奈はテーブルに並べられた色鮮やかな料理の数々を凝視した。
「ん? どうしたの、二人とも?」
 料理の邪魔になるのか、腰まであるロングヘアをポニーテールにした加奈が、お盆を片手に持ったまま首を傾げた。
「いや、その……この料理は一体? ……なあ、夕奈?」
 やや癖のある髪をぽりぽりと掻きながら、娘に同意を求めた。
「うん……このスープ、カメさんまるごと入ってるし」
 頷く夕奈と妻との違いと言えば、せいぜい夕奈の髪が背中までのセミロングだという事ぐらいだ。
 素性を明かさなければ、歳の離れた姉妹と勘違いする人も多く、実際雄治と加奈もそんな風にしてごまかす事が多かった。
「それは亀じゃなくて、スッポンだよ、夕奈ちゃん」
「わたし、レバーきらいなのに……」
「好き嫌いは言っちゃ駄目だよ? 大きくなれないもん」
「それに、にんにくって、ともだちが『へんな臭いがするー』って言うんだよ?」
「で、でも、美味しいんだよ? 体力も付くし」
 親娘の会話をよそに、雄治は食卓に並ぶ料理の数々をさらに確認して行く。
 うなぎの蒲焼、ホルモン焼き、それに多分あの丸い団子みたいなのは、何かの睾丸なんだろうな、と雄治は判断した。肉類主体の典型的なスタミナ料理だった。
「いくら何でもスタミナの付き過ぎだ。全部食ったら、鼻血出してぶっ倒れるぞ」
 雄治が言うと、加奈は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「だ、だって、ほら、明日で中間試験も終わるし……」
「いや、でもな? これだと下手したら今日中に暴発しかねないぞ?」
「あ、だ、だったら、今晩……」
「却下。自分から提案したルールを破棄してどーする、お前は」
「うっ……」
 確かにその通りなので、加奈は反論できなかった。
 その『提案』は加奈から言い出したものだった。
「?」
 夕奈はよく分かっていない様子だった。それはそうだろう。
 しかし、分かっていないといっても娘の前で続ける内容の会話ではないだろう。
「ま……せっかく作ったんだ。食べるけどな。ほら、夕奈も嫌いなものはとりあえず置いといて、このスープはいけるから飲め」
「あ、うん。おとーさん、すくってー」
「おう」
 雄治はお玉でスッポンスープを掬いながら、加奈に視線を向けた。
「とりあえず、飯食ったら試験勉強な」
「はい。それじゃ、私も食べようかな」
 全員が席に座ったところで、
「いただきます」
 三人同時に手を合わせ、食事が始まった。


 シャープペンシルがノートを走る音と共に、アニメのテーマソングが流れてくる。
「おれのこの手が真っ赤にもえる〜っ!!」
 テレビの音の原因は、夕奈がリビングでテレビを見ているためだ。
 高科家はリビングとキッチンが一緒になっているので、こういう事が起こる。
 もっとも、この程度の事は慣れっこなので、雄治も加奈も何も言わない。そもそも、これを禁止したら、夕奈は二人に構って欲しがるので勉強にならないのだ。
 二人は教科書とノートを交互に眺めながら、顔も上げずに会話する。
「やっと明日で終わるね、テスト」
「あー。どうせスタミナ料理作るなら、俺としては明日にして欲しかったな」
「やっぱり、我慢できない?」
「それはお前の方だろ。ルールはルール。もう少しの辛抱なんだから」
「それはそうだけど……」
 加奈は残念そうだ。
 そう、元々これは、加奈が提案したのである。
『試験期間一週間内と試験中はH禁止』と。
 なんでも中学の時、クラスメイトの友達が彼氏とHのし過ぎで成績がガクンと落ちたという話を聞いて、危機感を覚えたらしい。
 実は当時、その話を聞いていた友人達の中で、男性経験を自慢していたどの女子よりも、加奈が「進んでいた」のは当然秘密だったが。
 雄治も「Hのし過ぎは頭が悪くなる」と言った類の迷信は聞いた事があるが、いくら何でも加奈の発想は短絡過ぎる。
 当時の雄治はまず、「最近の中学生の風紀ってのはどうなってるんだ」と嘆き、次に人の事は言えないと大いに反省し、最後に「Hしてないで成績の悪い奴の立場はどうなるんだ」と一応の反論はした。
 もっとも、いくら加奈と愛し合い同居しているとはいえ、試験期間中に肉欲に耽るのはいかにも不謹慎と自分でも思っていたため、結局同意はしたのだが。
「……」
 雄治はチラッと顔を上げた。
 とたんに、それまで雄治を見ていたらしい加奈が、雄治の視線にハッと気がついて再び顔をノートに向け直した。
「……はぁ」
 雄治は頭を掻きながら、ため息をついた。
 問題は、言い出した方が実は欲求不満になる傾向が強かった、という事だった。
 こりゃ、今晩は用心して掛からないと駄目かな、と思う雄治だった。


 案の定、だった。
 薄暗がりの中、隣で眠っていたはずの加奈がもぞりと身じろぎした。
 雄治はというと、昼間寝ている分、夜の眠りは浅い。
 試験期間中はともかく、普段内緒でやっているバイク便のアルバイトは歩合制なので、そのための英気を学校で養っているのだ。
 何しろ夜は夜で……ええと……つまり…二人はまだ、若いという事だ。
 それはもう寝不足になるのは仕方がない事だと思う。
「ゆー君……」
 甘えた声と共に、もぞもぞと布団の中を移動し、雄治に覆い被さってくる加奈。
「お前ね……」
 雄治は何とか平静な声を保った。
 しかし実際は、加奈の柔らかさとぬくもり、風呂上りの甘い匂いを堪えるのに必死だったりする。
「あと、一日の我慢だろ? と、とりあえず離れてくれないか?」
「どーして?」
「いつ理性が爆発するか分からないからだ……俺だって、我慢してるんだぞ?」
「私も我慢してるけど……もお、限界だよぉ」
「あー、多分あんな料理食ったせいだろうな……ええい! だから、顔を俺の胸にぐりぐり押し付けるのやめろっての」
 加奈の頭を軽くはたきながら、雄治は考えた。
 いつもはかろうじて我慢できてるし、多分そうだ。
 弱った……。
 何も本気で雄治は嫌がっている訳ではない。断じてそれはない。
 こんな可愛い幼妻に迫られて、嫌がる男が存在するものか。
 だがしかし、明日はテストの最終日で、しかも自分は普段の何倍もたぎっている。
 だから、始めてしまえば、一回で済ませられる自信はとてもなかった。
 文字通り精も根も尽きた状態で試験日に望むとなると、大変困った可能性が出てくる。
 早い話が、寝過ごし、二人とも遅刻するかもしれないのだ。
 それは出来れば避けたかった……と、雄治が思案を巡らせている隙に、加奈の手は雄治のTシャツの中に潜り込んでいた。
「って、おい、加奈っ!」
 思わず雄治は加奈を押し退けようとしたが、本気になった加奈はかなりしぶとい。
「あんまり大きな声出しちゃ駄目。夕奈ちゃんが起きるよ……」
 あ、ちなみに夕奈は、ちょっと遠慮してもらって隣の部屋で寝てもらっている事を明記しておく。
 言いながら加奈の責めは続く。右手で雄治の上体を愛撫しながら、顔を雄治の首筋に寄せてくる。ふわっ……と、加奈の髪のいい匂いが雄治の鼻腔をくすぐり、雄治は一瞬頭がくらっと来た。
「んー……」
 加奈の舌が雄治の首筋を舐め上げる。
 上下に動く舌の感触に、雄治の背筋を微弱な電流のような快感が貫く。
「お、おい……」
 雄治が弱々しく抗議の声を上げるが、加奈はまったく聞いちゃいなかった。
「んふふぅ……もう夏服だし、キスマークはまずいよね」
 首筋への愛撫を続けながら、加奈の細い指が雄治の胸板を撫で回す。
「相変わらず胸板厚い……ほとんど運動してないのにねー」
「いや、バ、バイク便もそれなりに体力を使……いや、だから、そうじゃなくて!」
「そうじゃなくて? 何?」
 加奈はすっ呆けながら、その左手を雄治の下腹部からさらに下へ寄せようとしていた。
 い、いかん……これはまずい。本気でまずい。
 雄治は焦った。
 何がまずいかって、既に雄治自身も準備万端状態なのが、非常にまずかった。
 頭の中に選択肢が出現する。

 1.駄目だ、拒めない。
 2.それでも我慢。


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