An Impure Motive
1.誕生日の朝(前)






 部屋には、まだ薄暗さが残っていた。カーテンに閉ざされた窓は、まだ昇りきらない朝日の弱い光を遮っている。
 壁に掛けた時計を見た。午前六時ちょうど。十七年目最初の朝は、いつもより少しだけ早かった。
(――十七になったんだ、俺――)
 開いたばかりの目で天上を見つめながら、日高 勝也(ひだか かつや)は、頭の中で呟いた。夢から覚めたばかりなのに、思考が昨日の朝よりクリアになっている。全身を流れる血が熱く、心臓の鼓動の一つ一つまで鼓膜に聞こえてくるかのようだ。
 生まれてこの方、自分の誕生日というものを意識したのは初めてだった。去年は父や友人たちから「おめでとう」といわれても、自分が年齢を一つ重ねたのだという実感が、まるで湧かなかった。
 あれから一年が経っただけなのに、去年の今頃とは、間違いなく自分の中の何かが変わった気がする。何がだろう、などと自分自身にとぼけるつもりはない。かといって、決して胸を張って自慢できる事でもないが。
 部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「勝也くん」
 ここ数ヶ月で聞き慣れたソプラノ。自分の身体に、心地よい熱をもたらす声。
「勝也くん、起きている?」
 ドアの向こうから、もう一度ノックと共に声が聞こえてくる。
 それでもなお、勝也は黙殺した。しかも、一度開いた目をまた閉じる。
 ええ、目は覚めてます。でも、残念ながらそれだけで起きるほど、僕は純情ではございませぬ。
「勝也くん……入るよ」
 ゆっくりとドアの開く音が、大気を伝ってくる。隔たりがなくなった分、気配をより近くに感じられる。それだけでも飛び起きたい衝動に駆られるが、勝也は堪えた。
 フローリングの床を歩く音が抑えめに響いた後、気配は、自分のベッドのすぐ側で立ち止まった。微かな甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
「勝也くん」
 頭上から、もう一度声が降ってくる。それだけで、鼓動が早くなるのを感じる。今、俺の顔は、沸き上がる感情を巧く覆い隠せているだろうか。
「勝也くん、朝ですよ」
 肩に、柔らかい掌がかかる。どうやら、屈み込んだらしい。吐息が、すぐそこまで伝わってくる。でも、まだだ。
「――仕方ないわね……」
 若干溜息混じりの呟きが、耳元で聞こえた。そう気づいた時には、柔らかな感触が、勝也の唇を覆っていた。
 蕩(と)ろけてしまいそうなくらいに熱く、甘い。
 勝手に、身体が動いた。布団から這い出た両腕が、その背中に廻された。唇から離れかけたその感触を、再び引き戻し捕らえた。
 目を開き、今間近にあるその瞳をしっかりと見詰めていた。艶やかな漆黒の眼差しが、わずかに潤みを帯びている。体温が、一度上昇したような気がした。
 勝也の中で、堪えていた何かが弾けた。
「ん……んんっ……!!」
 唇が、取り戻したその柔らかい感触を存分に貪った。唇だけで飽きたらず、舌まで伸ばし、割り込ませる。すると、割り込ませた先から、熱い何かが舌に絡みついてきた。自分の舌と同じ物体。絡み合わせ、お互いの分泌液を交換し合う。
「……んん!!……くうっ!!……んあ……ああっ!!……ん……んんんっ!!……ふう……んんんううううっ!!………………はあっ――」
 酸欠気味になるまで味わって、ようやく離れた。離れていくにつれ、分泌液が細い糸を引き、ある程度の距たりで切れた。
 息を整えてから、目の前に意識を戻す。そこには、愛しい女性のすっかり上気した顔があり、見つめ合った瞳があり、貪り合った唇があった。
「まったく、強引なんだから……本当は、起きていたんでしょう?」
「誕生日の朝は、瑞紀(みずき)さんとのスキンシップで目覚めたかったから」
 勝也のストレートな言葉に、日高 瑞紀(ひだか みずき)は、ただ笑みを浮かべていた。苦笑いだと、一目で分かる。それでも、綺麗な笑顔だと思った。
 すっきりとした目鼻立ちと薄い唇。ストレートな長髪も、名前のように瑞々しい光を湛える瞳も、艶やかな鴉の濡れ羽色がよく似合っている。特別化粧を施さなくても人目を引く容貌なのに、派手さはなく、むしろ清楚な雰囲気を自ずと醸し出している。
 ちょうど年明けに成人式を迎えるはずだから、年は勝也より三つ上のはずだ。けれども、年相応に見える時もあれば、ずっと上に見える時も下に見える時もある。その時の化粧や雰囲気で、自分の年齢に関する印象を操る術を心得ているのかもしれない。ただ、幾つに見えようと美人である事に変わりはない。
 この世に生まれてからまだ十七年から経っていないが、これほど綺麗だと思える女性に出会ったのは初めてだと、勝也は心底から思っていた。
「じゃあ、そろそろ朝食にしましょうか……えっ?」
 立ち上がろうとする瑞紀の手を、勝也の手がしっかりと握った。
「あのさあ、瑞紀さん。さっきも言ったけど、今日は俺の誕生日なんですけど?」
「もちろん、分かっているわ。でも、平日でしょ?私も、勝也くんも、学校があるじゃない」
「まだ、登校までは時間があるよ。それまでさ、もう少しスキンシップを満喫したいんだけど」
「あのう、そういうプレゼントは、昨日の日付が変わる頃にお渡ししたと思うんですけど……」
「うっ!?……う、うん。それは、本当に……ありがとうございます……でもねえ」
「!!」
 いつの間にか、勝也は、瑞紀の手を自分のベッドの中へと導いていた。瑞紀の顔が、また少し赤くなったのを見逃さなかった。
「ごめん。もう、ここが熱くて、痛くて、しょうがなくってさ……だから、すっかり目が覚めちまっていたんだ」
 話をしている間も、自分の下半身がますます熱くなっていくのが分かる。パジャマ越しとはいえ、瑞紀の手が、指が、自分の欲望の象徴に触れている。そう実感するだけで、燃え上がり、はちきれそうになっている。
 だが、そこで意外な反撃が待っていた。
「あのね、勝也くん。いくら私でも、寝る前に『たくさん』楽しんで、それから今朝も……じゃ、一日満足に動けなくなると思わない?」
 うっ、確かに。瑞紀の反論に、勝也の言葉が詰まる。
 正直、半分ダメもとで押してみたのだが。まあ、彼女の言うとおり、昨日は、本当に『たくさん』楽しませてもらったしな。自分の愚息が、今朝も元気な方がむしろ不思議なくらいか。
 仕方ないか、と諦めかける勝也。
「でも」
 愚息へと導いた瑞紀の手が、ゆっくりと動き始めた。
「えっ!?」
「せっかくの誕生日の朝ですものね」
 重ねられていた勝也の手をすり抜け、指と掌で柔らかく、丁寧に、パジャマ越しの愚息を撫でていく。撫でながら、少しずつ、少しずつ上へと昇っていく。
「み、瑞紀さ……ん!!」
 瑞紀の手が、パジャマのズボンの中へ入った。いつ入り込んだのか分からないほど、滑らかだった。そして、同じ動きでトランクスの中へと滑り込む。
「もう少しサービスしてあげるわね……ただし、一回だけよ」
「いっ、一回!?」
「でないと、本当に今日一日の生活に支障が出そうだし、ね?」
 それだけで人を喜悦の境地へと昇らせてしまいそうな天使の微笑みを浮かべながら、瑞紀は、勝也の愚息へ触れた手を休めなかった。
 五本の細い指を絡めると、そのまま愚息を上下にしごきはじめた。緩急のツボを心得たたおやかな指遣いで、愚息の中の欲望を弄ぶ。しごくだけでなく、時折指を外しては根本から亀頭まで軽く撫でてやったり、袋を揉みほぐしてやったりする。
 尿道の口から、先走りの液が溢れ出しているのだろう。亀頭の部分が濡れてきているのを、瑞紀の指は感じ取った。
「ち、ちょっと待って。瑞紀さん!!」
 勝也が、堪らないという面持ちで呻く。思わず大きくなりそうになった声を、辛うじて抑えた。頬は赤く、息もすっかり荒い。
「どうしたの?」
 瑞紀が、先ほどと変わらない微笑みを浮かべて勝也を見詰めた。
 分かっているくせに、わざと聞いているな。この人は。自分だって、顔を赤くしているくせに。
 天使の笑みだと思ったけれど、本当はチェシャ猫の笑みなのかもしれない、と勝也は思った。それでも、愚息を責めていた指の動きが止まった事に、ひとまず安堵する。
「あ、あの手もいいんだけど……そ……その……」
「その、何。勝也くん?」
 瑞紀は、笑みを崩さずに勝也を見ている。先ほどまで勝也の下着の中へ潜り込ませていたはずの手も、勝也の下半身どころか、布団の中からも抜かれていた。これまた、いつの間に抜かれたのか分からない。ただ、指先は、透明な液で濡れている。
「瑞紀さん……さえ良かったら……その、口の方で……お願いしたいんですけど……」
 『口の』から後の言葉は、今にも消え入りそうなくらいの小さい声音になっていた。先ほど自ら瑞紀の唇を奪った少年と、同一人物の声とはとても思えない。
「そう。お口の方がいい?」
 むしろ、顔こそまだ赤らめているものの、瑞紀の方がどこか堂々としている。
「はい……」
「うーん。いいけれど」
「けど?」
 やっぱダメか、と勝也は、落ち込みかける。
「お口の方も使いすぎると、顎が痛くなるの。そうでなくても、普通のセックスを望む娘(こ)には抵抗のある行為だから。私はいいけれど、他の娘には無理強いをしてはダメよ」
「はい……ん?」
 私はいいけれど、ってことは。
「それじゃ、お口でサービスしてあげるね」
 よっしゃーっ!!
 勝也は、心の中で快哉を叫んだ。
 が――
「ちょっと待っててね」
「……えっ。ち、ちょっと、な、何をしているんですか。瑞紀さん!?」
 勝也は、驚きの声を上げた。勝也の前で、改めて立ち上がった瑞紀が、ブラウスのボタンを外し始めた。眼前の少年の驚きを気にする風もなく、全てのボタンを外したブラウスを脱ぎ、次にブラジャーのホックを外した。瑞紀の身体から、ブラウスに続いてブラジャーが、静かにフローリングの床へと落ちる。
 下半身スカートだけの半裸となった瑞紀の身体も、また綺麗に見えた。肩は、しなやかで柔らかそうなラインを描き、肌は、白磁のようだが決して不健康な印象を与えない。
 何よりインパクトがあるのは、はちきれんばかりのボリュームを備えた胸だった。バスト90。巨乳アイドルが多数輩出されている昨今、飛び抜けて大きいというサイズではない。だが、瑞紀の場合、大きいだけでなく、均整の取れた美しい形をしていた。特に、適度に引き締まったウエストとのバランスは絶妙だ。先ほど、ブラジャーが外れた時に一瞬見られた揺れは、それだけで牡の欲望に火をつける。
 瑞紀の手が離れ若干収まってきたはずの愚息が、半裸の彼女を目の当たりにして再び燃え上がりそうになっている。しかし、その一方で何故?という思いが、勝也の脳裏をよぎる。
「どうして、上だけ脱いだのか、って?」
 瑞紀の言葉に、勝也が、こくこくと頷く。
「やっぱり、勝也くんのお誕生日だし……もうちょっとだけ、サービスしてあげた方がいいかな、って思って……」
 と答えながら、瑞紀の顔が、ややうつむき気味になった。声も、少し小さくなった気がする。明らかに、恥ずかしがっている反応だ。
 自分もそうだが、この人も大胆に積極的になったり、かと思うと羞恥を感じたり、忙しい人だなあ。そう思いながらも、今の瑞紀の発言に、勝也の心臓はすっかり破裂しそうになっていた。
「勝也くんは、そのまま寝てていいから。ただ、上のお布団を外したいんだけど――いいかしら?」
 断る理由はない。心を鎮める必要はあるが。
「い、いいっす!!何の問題もないっすよ!!」
「では、失礼します」
 その声とともに、掛け布団が瑞紀の手で滑るように外された。
 布団が外され、外へ晒されたパジャマ姿の勝也の身体。下半身で、元気な愚息が立派なテントを張っている。
 改めて見ると、けっこう恥ずかしい。などと思っていると、半裸の瑞紀が、勝也の足元へ跨るようにベッドへ乗ってきた。動くたびに、形の良い胸が揺れる。
「すごく大きくなっているのね」
 はい。貴方のそんな姿を見て、大きくならずにいられる息子がいるでしょうか。
 下半身に注がれる瑞紀の熱く艶やかな視線に、愚息はますます燃えたぎるばかりだ。
「少しだけ腰を浮かせてくれる?」
 瑞紀の言葉に、勝也は素直に、というよりほとんど反射的に腰をベッドから数センチばかり浮かす。
「これでいい?」
「うん、ありがとう」
 そう言うなり、瑞紀は、トランクスごとパジャマのズボンに手をかけた。そして、一気に引き下ろす。
「うっ!!」
 突然の行為に愚息が上下に揺れ、勝也が呻いた。
「ごめんなさい!!大丈夫?」
「あっ……大丈夫。気にしないで……」
 ちょっと強すぎる刺激に、危うく肝心のものを出してしまうおそれがあっただけだ。
 外気に晒された愚息。その上へ跨る瑞紀。朧気にだが、彼女がどんなサービスをしようとしているのか、勝也は理解した。
 瑞紀が、露わな上半身を前へ傾ける。熱くなった愚息を、大きな双乳が柔らかく挟み込む。
 じっくりと、というには時間が気になるが。
「堪能してね」
 そう言って、瑞紀は、胸に挟んだ義理の息子のモノに唇をつける。
 愚息の先端に触れた、三才年上の義母の口づけ。勝也の思考は、そこから悦楽の淵へと引きずり込まれていった。


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