三姉妹は見た!
長女編






その部屋から漏れる光だけが、少女の体を照らしていた。
「はあっ、うん……」
いつも見ている兄と、優しいお姉さん。
「……くっ、ふっ」
「あんっ、あ、いいよ……」
少し開いた扉から、普段見る二人――兄の陽一郎とその恋人の早香――からは想像できないような光景が見られた。
どうして……
目は二人に釘付けになったまま、少女は考えた。
どうして、扉が開いていたんだろう。
どうして、漏れる明りに気づいてしまったんだろう。
どうして、部屋に戻ることができないんだろう。
どうして、目が離せないんだろう……
「お兄ちゃん……」
小さくつぶやいたその言葉は、幸運にも体を重ねた二人には届かなかった。
昔見た兄のそこは、もっと違っていた。
早香の中に出し入れされているそれは、醜悪とも形容できそうなモノだった。
(あんな……)
ごくりと唾を飲み込む音が、嫌に大きく聞こえた。
自分でも分かるぐらい、鼓動は早くなっている。
「さ、早香っ!」
「あうんっ、もう少し、優しくしてよっ……」
そう陽一郎に訴える早香は、目尻に涙を浮かべている。
ベッドの上で、位置を入れ替える二人。
そんな兄と早香の様子から、少女は目が離せなかった。
「う、わ……」
一瞬、目に入ってきたのは、二人の結合部。
(早香さんの、あんなに……)
少女ももう高校生。学校の授業で性教育を受けていないわけではなかった。
だが、その行為を目の当たりにした今、授業で教わったことなどどこか遠くへ行ってしまっていた。
話で聞くのと、自分の目で見るのとでは、天と地ほども差があった。
「ん……」
少女の手が自分の秘所へと伸びるまで、そう時間はかからなかった。
(やだ、濡れてる……)
少女向けの漫画でもそういった描写はある。
だが、ここまで興奮したことは、今まで一度もなかった。
「あっ……」
その部分に触れた瞬間、思わず声が出た。
中の二人に聞こえなかったか心配になったが、幸い二人は自分たちの行為に夢中だった。
少女がほっとしたのもつかの間。
心配ないと分かると、次に襲ってくるのは内からの欲求だった。
「はぅ……」
二度、三度……
表面をなでるようにして、少女は自分を慰めはじめた。
「……うん……はぁっ」
くちゅくちゅと淫靡に奏でられる音と、思わず漏れる声。それは、誰にも見せることのできない禁断の歌のようにも思えた。
(だめ……力が、入らないよ……)
へなへなと扉の横の壁にもたれかかり、少女は熱い息を吐いた。
「はあん、あっ、ああぅ……」
内側から聞こえてくる声が、少女の興奮をさらに高める。
「んっ……だめ……」
頭では分かっていても、自分の手は止まらなかった。
(せめてお手洗いで……)
最後に残った理性で立ち上がると、少女は壁に手をついてゆっくりとトイレへと向かった。
幸いなことに、妹たちがお手洗いに起きることもなく、誰にも気付かれることなくトイレへとたどり着いた。
「はふ……」
トイレの鍵を閉め便座に座ると、思わず大きく息をついた。
(あんな……なんだ……)
先ほどの兄と恋人の情事を思い出し、少女の体は小さく震えた。
恐る恐るパジャマのズボンを下ろすと、少女から分泌された体液のせいで、半分透けているショーツが見えた。
「やだ……」
先ほどまで使っていた自分の手。気のせいではない湿り気を帯びたそれと、交互に見比べる。
「…………」
しばしの逡巡のあと、少女は自らのショーツに手をかけた。
あらわになる少女の秘所。決して未発達というわけではないそれは、すぐに思い出される限りには、誰の目にも触れたことはなかった。
そしてそこはもうすでに、凝視せずともぬめりきらめく粘液が見て取れた。
少女は左足を解放し、改めてトイレの鍵を確認した。
「はぁ……」
自らを慰めたことがなかったわけではない。
だが、今夜ほどの体の火照りを覚え、またその欲求を意識したことはなかった。
「……はんっ……」
再び、自らの手を秘部に這わせる。
先ほどとは違う、見られることのない安心感からか、その動きは次第に大胆なものになっていった。
「やぁっ、溢れて……」
水音が大きく聞こえる。
だがそれさえも、少女の興奮を押し上げる要因となっていた。
(だめ……声、出ちゃう……)
脳裏に焼きついた、兄のその部分。早香の声。
「んっ……あっ」
表面をこするだけとはいえ、その刺激による快楽は確実に蓄積してゆく。
もはやその手を、少女の意思で止めることはできないだろう。
「あうん……」
少しずつ、少しずつ……確実に。少女はそれが登りつめていることを実感していた。
そして、その瞬間がやってきた。
「んんっ……はうっ! あああっ!」
最後の理性で抑えた声が、トイレの中に響いた。
恍惚とした表情で、何度も息をつく少女。力なく下がった手。無防備に開いた股にはきらきらと電灯に反射して光る、汗とも粘液ともつかぬ液体。
己の姿も考える余裕もなく、少女はゆっくりと目を閉じた……

真夜中のトイレで、少女が歌声を紡いだことを、誰も知る者はいない。

一方、その頃……
「……見られてたわよ」
「そうか……」
最後まで達した二人は、同じベッドで同じ天井を見ながら話していた。
「でもまあ、性教育ってことでいいんじゃねえの?」
「バカ?」
「バカとはなんだ、バカとは」
二人は、同時にため息をついた。
「ま、もうすぐ俺たちも結婚するんだし」
「もうすぐだから心配なのよ……よ、夜のこととか」
「まあな……」

寝苦しく、蒸し暑い夏。
そんな、ある夜の出来事……


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