秘密の関係
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最神学院の掲示板には、昼になっても人だかりが絶えなかった。
当事者の怒りを煽る文面と共に掲載されている写真には、二人の人物が写っている。 正座し、カメラに向かってちょっと驚いているのは1年1組の高円寺陸(こうえんじ りく)。 休日らしく、動きやすそうなパーカーにハーフパンツという格好をしている。傍らには、学院内でも常備している木刀が横たわっていた。 茶色で柔らかそうな癖毛、可愛らしい顔立ちに小柄な体躯で「子犬っぽい」と学院内でも評判の生徒だ。 そして正座している陸の膝に頭を預け、熟睡しているのは同じく1年1組の榊大輔(さかき だいすけ)。 短く刈った髪にまあ、不細工ではないが、かと言って二枚目では絶対無い顔の中肉中背の生徒だ。こちらも運動性重視なのか、青のストリートジャージという格好だ。 彼もまた、別な意味で有名なのだが、それはとりあえず置いておく。 今のところ、問題があるとすればこの掲示板を眺めている生徒達にある共通点があるという事だ。 女性が、皆無なのだ。 それも当然だ。 この最神学院は、男子校である。 すなわち、壁に貼られている記事の煽り文も『不純同性交遊!?』の文字が、堂々と出ている事は言うまでもない。 「だーかーらーっ、俺はホモじゃねーつってるだろうがあああああっ!!」 朝から続いていたクラスの陰口に、ついに切れた大輔は絶叫した。 「騒ぐな、大輔」 大輔の対面に座っていた最神清夏(もがみ せいか)は、盤面の『銀』を進めた。 「王手。詰みだ」 「おおうっ!?」 慌てて、大輔は机の上の将棋盤を凝視した。 「い、いや、ちょっと待て、清夏。まだ……まだ、勝負はついていない……筈だ」 「諦めが悪いぞ。集中していないから、こういう事になる」 清夏は涼しげな目元を和らげながら、開いた扇子を仰いだ。 「これでは、晴海先輩に勝とうなど、夢のまた夢」 最神清夏は、その苗字の通り、この最神学院の学院長の孫だ。 うなじの辺りで一括りにした流れるような黒髪と、ジッパー式の白い学生服は当然、校則に違反している。 しかし、『漢なら拳で語れ』を校訓と謳うこの学院、腕に覚えのある生徒なら学院独特のルール『決闘』で多少の無理は通ってしまう。 学院長とて、孫だからといって清夏を贔屓したりはしない。この髪と服装は、風紀委員会との死闘(何故か大輔まで巻き込まれた。彼の服はごく真っ当な黒の学生服である)の末、勝ち取ったものだ。 お陰で、清夏と大輔、それに陸はまだ一年生にも関わらず、すっかり学院でも有名人扱いだった。挑戦者も後を絶たない。 ついでに清夏と陸に告白が絶えないのは、男子校としてどうかと大輔は思う。 などと考えていると、四時間目の自習プリントを職員室に運んでいた陸が戻ってきた。大き目の学生服に身を包み、常日頃から肌身離さず持っている木刀もしっかりと抱えている。 「お待たせー……あれ、大輔、また負けたの?」 「い、いや、まだ勝負はついて……」 「完全に詰んでるね、せーか」 にぱっと陸は清夏に笑顔を向けた。 その言葉に、大輔は机に突っ伏した。その直前に、清夏が素早く将棋盤を引き抜いている。 「ふふふ……どうやら、陸の方が理解が早いようだな」 「しょうがないよ、大輔頭弱いもん。あ、そうだ。お弁当にしようね、二人とも。お腹空いてるでしょ?」 「お前さー」 机に頭を預けたまま、大輔は唸った。 三人分の弁当を鞄から出しながら、陸は首を傾げた。 「何?」 「そーゆー事するから、変な誤解を受けるんだぞ? 見ただろ、掲示板」 「言わせたい人には言わせとけばいいんだよ。大輔は、そういうの気にしすぎ。はい、せーかお弁当」 陸から弁当を受け取りながら、やはり清夏も難しい顔をした。 「ありがとう。しかし、膝枕はやり過ぎだろう」 「うーん、でもね、頭に寝かせるものがないと起きた時に変に寝違えたりするじゃない。公園で、代用できそうなものって他にある?」 「ふむ」 清夏は唸った。 「そこらに転がっている岩とか」 「好き勝手言ってるんじゃない。俺は、陸がどうしてもって言うから……」 大輔は弁当の蓋を開いて、白ご飯に箸を突き立てた。 「大輔の頭には岩で充分だ。それと、人のせいにするのは男らしくないぞ……ふむ、陸の卵焼きは絶品だな」 「ありがとう、せーか。ほらぁ、大輔もさ、もうちょっとこう、ボクに優しい言葉を掛けるとか、そういう事出来ないかなぁ?」 「やかましい。ああ、まったくもう、変な噂は立てられるわ、将棋じゃ勝てないわ。ロクでもないな、今日は」 「変な噂はともかく、将棋で勝てないのはいつもの事でしょ? 早く上達しないと、晴海先輩が卒業しちゃうよ?」 二人よりやや小ぶりな弁当を、陸も箸をつけ始める。 「分ーってるの、そんな事は。ああ、ったくもう何だってあの人は、あんなに強いのに、囲碁将棋部なんだよっ!?」 「格闘馬鹿が対戦目的で入学したのに、相手が格闘系どころか運動部にも所属していないと来てはな」 そのくせ、いざ戦うと鬼のように強いのだから、存在自体が反則みたいな先輩だ。 清夏は小さく呟きながら、箸を進める。 「まずは、先輩に将棋で勝たないとね。そうすれば、好きなだけ対戦してくれるって言うし。せーか、大輔の事、よろしくお願いします」 「心得た」 清夏は微笑みながら頷き、逆に大輔は渋い顔をした。 「お前、俺の保護者か」 「似たような物ではないか」 清夏は、大輔の弁当を箸で指した。 「良妻賢母とは、陸の事を言う。大輔には過ぎた幼馴染だぞ」 「陸は男だろ!?」 「えっへっへー」 陸は照れて頭を掻いた。 「お前も照れるな!!」 「むぅ」 さすがに、陸もちょっとムッとした。 「そんな事言うなら、お弁当作ってあげないよ?」 「そん時は学食のバトルロイヤルにまた参加するだけだ」 その、当の弁当を掻き込みながら大輔は言う。 「お洗濯もしてあげないんだから」 「臭いで困るのはルームメイトのお前だ」 「ひ、膝枕だってしてあげないし、耳掃除もしないんだからっ」 ざわ……と、クラスがざわめいた。 しかし、その雰囲気に気付かず陸は続ける。 「朝起こしてもあげないし、マッサージももうしないし、お菓子だってもう作らないよ? それでもいいの!?」 さらに騒然とする教室内の反応に、大輔の額から冷や汗が流れた。 「あー、好きにせい。ごっそさん」 大輔は、爪楊枝で歯を扱きながら明日の方角を向いた。 陸は涙ぐみながら、清夏に顔を向けた。 「せーか、大輔が意地悪言う」 「大輔、陸を苛めるな」 「俺だけ悪者かよ!?」 「その通り」 清夏、陸はおろか、クラスの全員が頷いた。 「むぅー……」 午後の授業の間、大輔の後ろの席で陸はずっと不機嫌だった。 授業が終わり、ホームルームの時間になってもそれは変わらない。 「あー、鬱陶しい。唸るな。シャーペンで背中をつつくな。引っ掻くな。猫か、お前は。そもそも、何で男子校でヤキモチ焼かれにゃならんのだ……」 帰りの下駄箱の中を覗くのが怖いと、大輔は思った。 通達を続ける担任に構わず、前の席の清夏が振り返った。 「陸は可愛いからな」 その言葉に、大輔は頭を抱えてしまう。 「清夏。むしろ、お前の方が疑われると思うんだけどなぁ」 「日頃の行いのせいだろう。ああ、ところで大輔。将棋の『決闘』の取り分は、コミック五冊だぞ」 「俺の部屋から勝手に持ってけ。どうせ今日は遅くなる」 大輔は寮の鍵を清夏に投げ渡した。 この教室だけでも、敵意が集中しているからな。 一体何人を相手にすればいいのか、とりあえず大輔の安息は、ホームルーム終了がリミットなのは確実だった。 「あと、陸。お前はこっから先、学校内ではあまり引っ付くな」 「え〜〜〜〜〜? やだよ、そんなの」 陸は、大輔の学生服を後ろから引っ張った。 「……状況分かってんのか、陸? 何故か、俺が理不尽な敵意にさらされているんだ。危ないんだよ。なんで、男に言い寄られて、こんな目に遭わにゃならん」 「女っ気がないからだろうな」 学級委員長の号令と共に立ち上がる。 気をつけ、礼。 終了と同時に、清夏は反転、跳躍して軽く大輔の机の上に乗ると、後ろの陸と傍らの木刀をかっさらった。 「では大輔、達者でな」 長い髪が宙で弧を描く。 続いて打撃音。 「応っ」 返事と同時に、大輔は最初のクラスメイトをぶちのめしていた。四方八方から、嫉妬むき出しの級友達が大輔を取り囲む。 「お前らさ……絶対おかしいぞ」 顔を引きつらせつつ、大輔は学生服の袖を捲り上げた。 「大輔ー、廊下で待ってるよぉー?」 清夏に抱えられながら、陸はぶんぶんと手を振った。 「……これでよし、と」 新聞部は、大輔の手によって壊滅した。 なお、1年1組教室もここと同じように再起不能者がゴロゴロと転がっている。 「大輔ー。データ全部消去したよー」 パソコンをいじっていた陸が、大輔に駆け寄った。 「ああ、ご苦労……って、何だよ、そのディスク」 大輔が頭を撫でてやると、陸は嬉しそうな顔をした。 「膝枕のとか、その前のパフェ一緒に食べてるのとか写ってたから、もらっといた」 大輔は、撫でていた手をチョップに変えた。 「……それも、消去しとけ」 「えー? いいじゃない。せっかくのデートの記録なんだし」 「あんまり、そういう事を口にするな。どこで誰が聞いているか分かったもんじゃないだろ」 小声で言いながら、周囲を見渡す。幸い、新聞部員は全員気絶しているようだ。 「大輔」 呼び掛ける陸の声も同じく小声だ。大輔の顔を覗き込む。 「どうした?」 「唇、切れてる」 ぺロッと、陸は大輔の唇を舐めた。 「ばっ!」 大輔は、慌てて口を拭った。 「馬鹿か!? だ、だ、だから、お前はっ、そーゆーのを、やめろと言っているんだよっ!」 「やだ」 ふん、と陸は鼻を鳴らした。 「大輔とイチャイチャ出来ないんじゃ、ボクがこの学院に入学した意味ないじゃん。大輔が目的あってここに入学したのと同じで、ボクにだって理由があるもん。それは譲れないよ」 「……どうしてもか」 深々と、大輔はため息をついた。 「どうしても、だよ」 布の擦れる音がした。竹刀袋が床に落ちる。 顔を上げると、陸が大輔に向かって木刀を構えていた。 「最神学院校訓! 『漢なら――』」 「『――拳で語れ』ってか!!」 最神学院本校舎の一角で、窓ガラスが盛大に破砕した。 中庭に飛び出した陸は、少し遅れてやはり中庭に立った大輔と間合いを取る。 木刀相手に中距離では不利なのが分かっている大輔は、素早くダッシュを仕掛けた。 「甘いよ、大輔っ」 それを読んでいた陸は、連続した突きを放ちながら逆に突進する。 「――甘いのは、お前の方だ」 「!?」 大輔の姿が陸の眼前から消失する。 丸い影が、陸の全身を包んだ。 背後に大輔が着地。 「その手の技は、外れた時の隙がでかい!」 まだ陸は突進技の慣性を殺しきれていない。 その背中に向けて大輔が拳を放つ――が。 「知ってるよ……っと!」 陸は駆けながら木刀を石畳に突き立てた。足に力を込める。 そのまま強引に垂直跳躍を成功させた陸は、身体を捻って隙だらけの大輔に木刀を振り下ろした。 「とわっ!?」 間一髪、大輔は前転してそれを避けた。 「あ、危ねー……今日一番でかいダメージ食らうとこだったぞ、お前っ」 繰り出される陸の突きや薙ぎを、大輔は拳で払っていく。 「手加減は、大輔に対して失礼でしょ?」 陸は刀身だけでなく柄尻まで利用して、大輔の攻撃を受け止める。 その戦い様は、剣術に加えて杖術も組み合わせているようだった。 「そりゃまあ、そうだが……分かってるな? 俺が勝ったら……」 大輔の足払いを、陸は軽く跳んで避ける。 「大輔の言う事、何でも一つ聞いてあげるよ。その代わり、大輔が負けたら今まで通りにしてもらうから……ねっ」 しかし、陸の袈裟切りもまた空を切っていた。 「上等っ」 後転して間合いを離した大輔が、微かに膝を屈めた。 それを陸は見逃さない。 「もらったぁっ!!」 大輔がジャンプするのを先読んで、陸もまた木刀に力を込めて跳躍する。 「なんちて」 だが、跳躍していたのは、陸だけだった。 「あ……?」 すたすた、と大輔は歩み、陸の着地予想地点に立った。 「こうなると、対空技は突進技より危険だよなー」 グッと、大輔が拳を握り締める。 それを見ながら、陸は叫んだ。 「ず、ずるいー!」 「んう〜……ずるい……ずるい……反則だよぉ……」 背中から、呪詛のような寝言が聞こえる。まだ目覚める気配はなさそうだった。 「ちょっと、やり過ぎたか」 大輔は陸を担ぎながら、寮の廊下を歩いていた。 幸い、誰にも見咎められずに自分の部屋の前に立つ事が出来た。 ノブを回すと、扉が開いた。 「あれ……?」 鍵は開けっ放しだったのだろうか。 少し疑問に思いながら、大輔は陸をベッドに寝かせた。 「しかし……」 大き目の学生服に身を包んだ陸は、そのままだと明らかに寝苦しそうに見える。 「やっぱ、服ぐらいは脱がしといてやらないとな、うん」 金ボタンを外していく。 「すぅ……」 陸の場合、学生服を着ているというより、学生服に包まれている、と形容すべきかもしれない。前をはだけてみると、いかにもそんな印象を大輔は受ける。 「むに……大輔ぇ……」 無防備だった陸の寝顔の、眉がしかめられる。 「行っちゃ……やだぁ……」 目尻に涙が浮かぶ。おそらく、ちょっと前の夢を見ているのだろう。 「どこにも行かないっての……ただ、ちょっと無防備すぎるぞ、陸」 眠っている陸に、大輔は顔を寄せる。 「んぅ……?」 正にその時、薄っすらと陸の目が開かれた。 「…………」 「おはよ、大輔……」 「お、おう」 両腕を陸の頭脇で突っ張らせながら、大輔はかろうじてを返事した。 「……で、この状態は何?」 「いや、苦しそうだったから」 「えっちしようとしてた?」 陸は、へろっと無邪気そうな笑みを浮かべた。 「してない」 「ふーん」 「あ、い、いや……する」 大輔は、首を振って陸と同じベッドに乗った。 「だったら最初っからそう言えばいいのに。見栄っ張り」 陸は笑いながら、だぶだぶのカッターシャツのボタンを第二まで外した。 「ボクからするね」 陸は、大輔を仰向けに寝かせた。自分はその上に四つん這いのように伸し掛かり、軽く大輔に口付ける。 「ん……」 大輔の視線は、少し潤んだ陸の瞳と唇、アンダーシャツの隙間から覗く、ほんのわずかだけ女性を主張している薄い胸の谷間へと下降していった。 生暖かい粘膜が、大輔の口に滑り込んでくる。 「ぅん……ん……んん……」 舌を大輔の口腔内で踊らせながら、陸の小さな手が彼のシャツのボタンを外していく。 「大輔ぇ……ん……んく……ちょうだい……」 「ん……」 大輔は陸の口内に、自分の舌と一緒に溜まった唾液を送り込んだ。 目をつぶって、それを啜り込む陸。 子供のように大輔の口を吸いながら、陸は彼に身体を預けた。 「は……ぁむ…大輔のこれ、ちょっと邪魔だよね……」 少し唇を離すと、陸は大輔のアンダーシャツを指でつまみながら顔をしかめた。 「脱ぐか」 「うん」 陸の身体に腕を回しながら、大輔は身体を起こした。 「ちょっとだけ離れてろよ?」 カッターシャツもまとめて脱ぐと、ベッドの脇に落とした。 裸になった上半身を、陸の手がぺたぺたと触る。 「また、筋肉ついたよね、大輔……」 首筋をチロッと舐めると、その舌をゆっくりと下降させていく。 大輔は再び仰向けに倒れると、陸の愛撫に身を任せた。 陸の手は下に先行して、へそから下腹部へと到達しようとしていた。 「ん……硬くなってる……?」 陸の視線が、そちらを向く。 「そ、そりゃな」 陸の舌での愛撫が中断し、視線が大輔の下半身に集中する。少しそっちに身体を伸ばして、また戻ってくる。 ある予感に、大輔のモノはさらに硬さを増した。 それに気付いた陸は、誘うような笑みを浮かべながら大輔に向かって首を傾げた。 「口で、して欲しい?」 「あ、ああ……」 「いいよ。でも……ボクにも、ちゃんとしてね」 膝立ちした陸は、自分のベルトのバックルを外すとズボンのジッパーを下ろした。 自然、大輔が手を伸ばして、陸の黒ズボンを下着ごとずらした。体育のある日は、ごまかしが利くようにトランクスを着用しているが、今日はショーツだった。 「何か、こういうのってマニアックだよなー……」 上半身はボタンを外したとはいえ、ほとんど着たままだ。その状態のまま、陸の白い太股の間に、大輔は手を差し入れた。 「んぅ……大輔……だって、こういうの好きなくせに」 切なげに喘ぐ陸のそこは、微かに潤んでいた。 彼女は身体を反転させると、大輔のズボンを自分の時と同じように下着ごとずり下ろした。 屹立する大輔の剛直に、陸は唾を飲み込んだ。胸を高鳴らせながら、下の大輔に身体を預ける。 「すげえ光景……」 自分の顔に、陸の女の子の部分が降りてくる光景を、大輔はそう表現するしかなかった。 「や、やだ、恥ずかしい事言わないでよ」 「だって、事実なんだからしょうがないだろ。ほら、俺のもしてくれるんだろ?」 大輔は自分の腰を揺すってみせた。 「う、うん……下手だったら、ごめんね」 陸の顔が、下がった。 そして、ねっとりとした生暖かい感触が大輔のモノ全体をゆっくりと包み込む。 根元にはちょっと足りないぐらいまで陸は肉棒を飲み込んだかと思うと、頭を引き上げた。 下半身から、陸の一生懸命なくぐもった声が聞こえてきていた。そのたびに、大輔のモノは手や膣とは異なるヌルヌルとした感覚に扱かれる。 「っ……冗談。何が、下手なんだよ……お前……」 特に裏筋に乗った舌の感覚が何とも言えない。陸の唇が上がるたびに、それが大輔のモノを舐め上げるのだ。 「気持ち……いいの、大輔……?」 自分の行為に今一つ自信がないのか、奉仕を中断して陸が尋ねる。ある意味、大輔は助かった。 「まあ、な……つか、マジお前の舌、やばい……良すぎ……」 暴発の危険から逃れられたと思ったのもつかの間、陸の口唇愛撫はすぐに再開される。今度は口に咥えず、手と舌で肉棒全体を刺激し始めた。 「やめないからね……大輔が、いつもボクにしてくれてる時もね、すごい気持ちいいんだ……ん…んんっ」 陸の腰がピクンと跳ねた。 「こんな、風にか……?」 両手で陸の尻を左右に開いた大輔は、舌先で秘処を舐め上げた。 深い位置までは責めない。ゆっくりゆっくりと舌でなぞるように秘唇を舐め続けると、透明な粘液が陸のそこから潤み始める。 「ふぁっ……あっ、う、うん……それ、いいの……大輔の舌、気持ちいいよぉ……」 大輔から与えられる刺激に、陸は目の前の肉棒に集中できない。自分の秘処から淫液の音が聞こえると、その羞恥に顔が真っ赤になる。 「陸、お前も……」 大輔に促されるまま、拙い舌使いで大輔のモノに唾液をまぶしていく。 「う、うん……んうっ……ふくっ……んむっ……んあっ、だ、大輔……そこ、汚いよ……」 陸の慌てるような声。 しかし、大輔はそれをやめようとはしなかった。大輔の舌は秘処だけではなく、淫核から蟻の戸渡り、さらに後方の小さな窄まりまで刺激していた。 「お前だって、舐めてくれてるからな。お返しだ。それにお前のだから、特に汚いとも思わん」 舌先でほぐすように、大輔は菊座をつついた。 「で、でも、恥ずかしいよ……そんなのぉ……」 陸は腰をくねらせ逃れようとするが、しっかりと片手でお尻をホールドしている大輔はそれを許さない。しかも、もう一方の手では、ほころび始めた花弁に指を二本捻り込んでいた。 「そうみたいだな」 小さく舌の先端が陸の後ろに潜り込んだ。同時に、揃えた二本の指がピストン攻撃を開始し、愛液に潤んだ膣粘膜を掻き回す。 「はぁ……んっ……やぁ…ボクだけ先に言ったら、意味ない……ん……んんぅっ」 たまらなくなった陸は、無我夢中で大輔のモノを咥え込んだ。 「お、おい?」 少し慌てた大輔の声。しかし陸は構わず、頭を上下させる。 時々喉に当たって苦しいけれど、そんな事には構っていられなかった。青臭い臭いを肺に送り込みながら、陸は口と舌と手を駆使して大輔を高めていく。 「んぐっ……んんっ……ふはぁ…大輔の…っ…また…大きくなってきてる……」 口の中に溜まった唾液が処理しきれず、竿を伝って重い雫が滴っていく。 「ちょっ、ストップストップ、陸、このままだと……」 陸は大きく息を吸い込むと、限界寸前の大輔の肉棒を再度口に含んだ。 それなりに大輔の私物の雑誌で予習はしていたが、実際にはそんなのを頭に浮かべる余裕などまるでない。 ただ、自分の口で大輔が悦んでくれていると思うと、その行為にはさらに熱がこもった。大輔の指が膣を激しく往復し、自分自身ももう長くは保ちそうにない。 「んっ、んっ、んっ、んうぅっ……んくっ……ぅんん……!!」 陸の口の中で、傘が大きく開く。 「り、くっ……!!」 大輔が呻き声と共に、指を根元まで陸の秘処に突き入れた。 陸の頭は真っ白になっり、同時に喉に熱い粘液が叩き付けられる。 「んうぅ、んんっ……!?」 陸は目をつぶって、それを飲み込んだ。 けれど、大輔の先端からは容赦なく、精液が放出される。飲みきれず、小さな口には収まらなかった精の一部が、唇の端から溢れ出た。 「お、おい……?」 「んく……ん……んん……んくっ……ぅんっ……ふはぁ……」 ようやく射精の勢いが衰えると、陸は大きく顔を上げた。 「だ、大丈夫か……?」 大輔の声に、陸は彼から降りてから振り返った。 「へーきだけど……毒じゃないでしょ、これ?」 「そりゃまあ、そうだが……」 向かい合う。 陸は、唇を指で拭うと白濁の雫を口に含んだ。 「んっ……それに、大輔のリクエストだしね……これぐらいはしてあげないと」 「うん?」 陸の呟きの意味が、大輔には今一つ分からなかった。 「んー……ちょっと、休憩、する?」 陸は大輔のモノにそっと指を絡めるながら、首を傾げた。 「いや、すぐに回復すると思う……そのままだと……」 陸の手の中で、大輔のモノは次第に活力を取り戻し始めていた。 「本当だ……タフだね、大輔」 「そっちこそ、大丈夫なのか?」 「ん、いーよ、大輔……来て……」 陸は後ろの手を突くと、そのまま仰向けに倒れた。 おっそろしく無防備で、物欲しそうな視線が大輔を捉えていた。 「ああ」 大輔は身体をずらすと、陸の足を広げた。 そこで、蜜を垂れ流す小さな秘処に思わず釘付けになってしまった。 「ちょ……だ、大輔ぇ……まだ、舐めるの?」 大輔は花弁に顔を寄せたくなる衝動を抑え、陸に伸し掛かった。 残るカッターシャツのボタンを外していく。 「悪い。つい、な。あんまりきれいなんで」 「ばかぁ……ん、で、でも、いいよ。大輔が舐めたいなら、好きなだけ、その、して……」 健気にも、陸は自分から足を開いた。 「そうしたいところだけど、今はこっちな」 大輔は、そこに自分自身の標準を定めた。 既に充分な硬度を取り戻していたそれが、徐々に陸を貫いていく。 「くっ……んああっ……大輔の熱いの、いっぱい入ってくるよぉ……」 「俺も…いい……」 口の中とはまた異なる心地よさだった。 根元まで入ったそれをゆっくりとそれを引き抜き、また貫いていく。 正常位なので、すぐ真下に陸の喘ぎ顔があった。 「でも……これだとキス出来ないね……」 ちょっと残念そうな顔をされ、大輔は少し考えた。 「そうだな……さすがに。じゃあ、代わりにこっちだ」 大輔は、陸のアンダーシャツを捲り上げて、ささやかな膨らみの先端を口に含んだ。 小さく吸いながら舌先で転がすと、陸の背中が小さく仰け反った。 「あんっ……は…ぅんっ……ん、あぁ……だ、大輔、その舌、もっとぉ……」 「こうか?」 言われるまま、大輔は軽く乳首に歯を立てる。 「んんっ! う、うん……いいよぉ…っ…もっと強くして……」 本当に感じているらしく、陸の声が甘さを増した。 抽送を続ける大輔のモノを包む肉穴も、締め付けをきつくする。充分に蜜で濡れたそこは、互いにさらなる快感しか与えくれていた。 「痛いの、好きなのか?」 もう一方の手で乳房を揉みながら、小さな突起を噛み、吸い、舐める。 「違う、けどぉ……んんっ、うぁ……ゃぁ……で、でも……どうしよう…ボク、あん……変なのかも……」 陸の戸惑った涙声に、大輔は愛撫の手を少し緩めた。 「心配しなくても、陸がどれだけ変になっても見捨てたりしないから、安心しろ」 「ん、ぅん……大輔、好きぃ……」 本当に安心したように、陸は甘えた声を上げた。 「うん……じゃあ、もっと変になるように、陸を気持ちよくしてやろう」 大輔は、胸を揉んでいた手を二人の繋がった部分に忍ばせた。 「ひぁっ!? そ、そっちは……」 陸が大きな声を上げる。大輔の指は、勃起した淫核を捉えていた。 「大丈夫。そんな強くはしない」 陸を信じ込ませるように、大輔の指は優しくそこを刺激し続ける。 「う、うん……大輔がそういうなら、大丈夫だよね……ん、あぁっ……で、でもやっぱり怖いよぉ……」 「おかしくなりそうで?」 「うん……変になりそう……ん、んぅっ……すごいの、来てるから……」 大輔の舌と指の断続的な刺激が、陸を襲っていた。 先に達してしまいそうだし、気を抜くと高い声を上げてしまいそうになる。 「もっと声出していいんだぞ? 壁は厚いし、ここには俺達しかいないんだから」 「はうぅ……でも、でもボク、すごい声上げちゃうかも……」 「つーか、俺が聞きたいんだけどな……」 大輔は、陸の首筋から耳まで舌でなぞり上げていく。 そうしながら、腰の動きは次第に大きく強くしていった。 「そっちの方が、いいの? じゃあ、抑えるのはやめとく……ん……はぁっ…ああっ…んあぁっ!」 遠慮がちだった陸の声が高くなり、ギュウッとシーツを握り締める。 「ん、やっぱり、そっちの方がいい」 もっと声が聞きたくなった大輔は、陸の耳を舐め回しながら奥を何度も先端で突いた。 「は、あっ、楽だけど……あぁっ……! ゃん、あっ……恥ずかしいよぉ……」 頭を左右に振りながら、陸は大輔から与えられる快感に身を委ねているようだった。 「ああ、そういう顔も嫌いじゃない」 「やあっ……あ、あんまり見ないでよぉ……」 顔を羞恥に赤らめ、陸は顔をうつむかせた。目が髪に隠れるぐらいで、全然隠れていない。 「やだ。むしろ、もっと見てたいぐらいだ」 大輔はわざと、大きく力強い突きを繰り出した。 「はっ、あっ、ああっ! んぅっ、ふぁっ、すごいよぉっ……!」 大輔の動きにつられ、陸の身体と共にベッドが軋みを上げる。 「ほら、陸……自分でも、やってみな」 「はぁっ……ん、うん、してみるぅ……ぁ、ああっ……あぁんっ!」 自分の腰の動きから来る心地よさに、陸は酔いしれた。 大輔の動きに合わせ、徐々に積極的なものへと変化していく。 「ああ、また上手くなってる、その調子で……」 これまで大輔に仕込まれた腰使いは、確実に陸と大輔を高みの方へと導いていた。 「はぁっ……大輔、いいの……? ボクの……よく…っ…なってる……?」 陸は大輔に可愛い顔を向けたまま、腰の動きをさらに強める。 「すげえいい……このまま出そうだ」 大輔は陸の頬に口付けると、彼女の頭を撫でた。 その行為に嬉しくなった陸は、小さく大輔の頬を舐め返すと、両足を彼の腰に巻きつけた。そのまま、激しく腰を揺さぶり始める。 「うん、うん、出してぇ……大輔の、ボクのお腹の中にいっぱい出していいからぁ……!」 「嬉しいけど、イク時は、一緒な……っ」 身体にも腕を回してしがみついてくる陸の頭を抱えたまま、大輔も限界まで射精が近づきつつある腰の動きを早めた。 「はあぁんっ! あっ、ああっ! 頭、おかしくなっちゃうよぉ……っ!」 「陸……いいな……っ!!」 急速に締め付けを強め始めた陸の中で、大輔のモノも限界まで膨張を遂げる。 「あ、うんっ……ん、あ、あ、ああぁぁっ!!」 「んっ……くぅっ!」 先端が最奥を一際強く貫くと同時に、陸は絶頂の声で鳴いた。 「ふぁっ、あ、あはぁっ、ああぁーーーーーっ!!」 鈴口から勢いよく放たれた大量の精液が、陸の子宮を満たしていく。 陸は大輔にしがみついたまま、声と身体を震わせた。 「ああっ……あ、熱いよう……陸の…っ…ボクの中に……いっぱい出てるよぅ……」 繰り返し脈動を続ける肉棒が、断続的に陸の膣内へ精液を送り込んでいく。 収まりきらなかった白濁液が二人の繋がっている部分から滲み出て、シーツに染みを作っていった。 「悪い、止まらない……」 陸は首を振った。 「ううん……っ……ボク、全部受け止めるから……」 そのまま、さっきと同じように大輔の頬を舐めた。 「陸……」 大輔も、ちょっと迷って同じように陸の頬を舐め返した。 やがて、衝動の収まった大輔は繋がったままの陸に身体を預けた。 「大輔ぇ……気持ちよかった……?」 特に重さについてはコメントせず、陸が尋ねる。制服がシワになるかもしれない、とちょっと思わないでもなかったが。 「も、最高……」 「ん、よかった……ね、大輔、抱きついてていい……?」 「好きなだけ」 「うん♪」 陸は満足そうな声と共に、大輔にギューッと抱きついた。 雀の囀り、朝の光。 そして体の揺さぶられる感覚で、大輔の意識はゆっくりと覚醒していった。 「大輔、大輔、朝御飯の時間だよ。起きてよぉ……」 寝ぼけ眼が、心配そうな幼馴染の顔を捉える。 服装は、トレーニングウェア姿だ。当然ながら男物の。 大輔もTシャツにジャージなので、そのまま出られるといえば出られるのだが、これはあくまで寝巻き代わりなので、陸がそれを許さない。 「んぁ……? あー、あと五分」 まだ半分まどろみの中にいる大輔は、シーツを引きつけながら丸まった。 「もぉっ! そんな事言って大輔起きたためしがないじゃない。そんなんじゃ、ご飯食べ損ねちゃうよ? トレーニング出来ないよ?」 「一食ぐらい……いいじゃないか」 「むぅ……」 陸が唸った。 それから、何やら大輔のベッドが軋んだかと思うと、何やら唇に柔らかいものが押し付けられた。 「……んん? ……っ!?」 陸のキスに一気に目が覚めた大輔は、ベッドから飛び起きた。 「よし、起きた、と。さ、着替えよー」 陸は平然としている。 逆に、大輔はいまだに動揺していた。 たまらず叫ぶ。 「ば、ばばばば、馬鹿者ぉっ! 昨日、あれほど俺にくっつくなって言っただろうが!」 「何の話?」 陸は、本当に分からないという風に顔をキョトンとさせた。 「はぁ? だから、昨日の勝負で……」 大輔の言葉に陸は何かを思い出すように天井を見上げていたが、やがて『ぽむ』と両手を合わせた。 「ああ、あれ? うん、だからちゃんと守ったでしょ? 『大輔の言う事、何でも一つ聞いてあげるよ』って」 「…………」 満面の笑顔で言われ、大輔は絶句する。 その彼の顔を、陸は覗き込んだ。 「そ・れ・と・も、大輔は口を使ってしかも飲んでまでもらって、さらにその上でくっつくなっていうの? それはあんまりだと思うなぁ」 「ハ、ハメやがった……」 大輔、本日一回目の『詰み』であった。 くい、とTシャツの裾が陸に引っ張られる。 「でも……ボクの口、気持ちよくなかった?」 「……ヨカッタデス」 そう言うしか、大輔にはない。というか、言わなければ今後一切、陸は口ではしてくれなくなるだろう。 大輔の言葉に満足した陸は、嬉しそうに笑った。 「うん。ならいいじゃない。さ、大輔早く着替えよ。朝のトレーニングする時間なくなっちゃうよ?」 陸は背伸びすると、大輔に軽くキスした。 大輔に(少なくともホモ疑惑のない)平穏な学校生活が訪れるのは、果てしなく遠い可能性だった。 『あとがきへ→』 『ノベル一覧へ戻る→』 『TOPへ戻る→』 |
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