本と道具の絡み合い






 朝のホームに電車が滑り込んでくる。
 望月晴彦(もちづき はるひこ)は文庫本から顔を上げ、電車のドアが開くのを待った。
 窓から見える中の様子は、いつも通りの満員具合。
 ドアが開くと、いつも通りに扉の脇で待機し、吐き出される人々をやり過ごす。
 ほんのわずかな時間の空白に、電車の中の様子を確認する。
 幸い、扉近くには誰もいなかった。
 よかった、壁にもたれられる。
 それだけでも救われる。
 晴彦は、電車に乗り込んだ。
 しばらくして、電車が発進する。
 電車の揺れに身を委ねながら、晴彦は文庫本の文字を追う。
『「ん……あ…あ、あっ、あぁんっ!」
 部室の扉を開けると、いきなり女の喘ぎ声が聞こえてきた。
「うーす……早いな、お前ら」
 蛍光灯の点いた部室で、女生徒が二人の野球部員に犯されていた。
 二年生の野球部マネージャー、愛沢清美(あいざわ きよみ)だ。
 獣の交尾のスタイルで後ろから貫かれる度に、ポニーテールがひょこひょこと前後に揺れている。もう何人にも輪姦(まわ)されているのか、髪や顔、はだけた制服にも精液の残滓がこびりついていた。』
 普段の晴彦は、市立の高校に通う優等生の部類に入る高校生だ。学年内ではトップクラスに位置する。
 家でも学校でも、勉強ばかりしている。一年後には大学受験が控えているのだ。
 親や教師に見張られ、自由になる時間はない。
「だから、こういうところで息抜きするしかないんだよな……」
 晴彦にも性欲はある。
 けれど、発散する材料がない。
 友人も少なく、彼女を作る暇もない。
 ヌード写真などがあるエロ本など、速攻で母親に見つかる。
 そこで、彼の発散となったのが官能小説だった。
 文庫本には本屋のカバーがかけられ、当然ながらどういう内容かは普通分からない。
 母親も小説の並んだ本棚にだけは手をつけないのだ。
 だから、ここで想像力を頭に溜め、家に帰ってトイレで性欲を吐き出す。
 それが、晴彦の己の性欲への対策手段だった。
「ふぅ……」
 話が一区切りしたところで、天を見上げて息を吐き出す。
 彼のモノはズボンの中で既に勃起していたが、ここで放出するわけにも行かない。
 そんな事をしたら変態だ。
 まだ、学校のある駅までは間がある。
 もう一章ぐらいいけるか。
 晴彦は、文庫本に視線を戻そうとし――目の前の少女に気がついた。
「え……」
 思わず、声が出た。
「……」
 ショートカットの小柄で清楚な感じのする女の子だ。どことなく仔犬を思わせるつぶらな瞳。晴彦の通う秋陽高校より少し先の駅にあるお嬢様学校、清麓学院の制服を着ている。
 彼女はやけに真っ赤な顔をして、俯いていた。
 原因は、すぐに分かった。
 当たっているのだ。
 彼女の手の甲に、晴彦の硬くなったアレが。
 慌てて、晴彦は身を引こうとした。満員電車とはいえ、強引にすれば多少は融通が利く。
 しかし。
「……待って」
 か細いが、可愛い声がそれを制した。
 さらに少女は手を返し、晴彦のモノに触れてきた。
 おまけに、さらに身体を寄せ、晴彦に密着させてくる。
「……」
 潤んだ瞳で少女は晴彦を見上げてきた。発情したような荒い息を吐いている。
「誰にも、言わないから……」
 言いながら、晴彦の股間をまさぐり続ける。
 ど、どういう……つもりだ……?
 晴彦は、心の中で狼狽した。
「ね……本、しまって」
「え……?」
「私も、触って欲しいから……」
「い、いい……のか?」
 思わず上ずった声で尋ねてしまう。
「うん……」
 少女は欲情した、熱い吐息を漏らしながら頷いた。
 晴彦は唾を飲み込み、文庫本を学生服のポケットにしまった。鞄は床へ。
 そして、他の乗客から死角になるように姿勢を変えてから、おずおずと少女に手を伸ばした。
 どこから触ればいいのか分からなかったので、とりあえず……胸に触れてみる事にした。
「あんっ……」
 手の平の中で初めての柔らかな感触を味わう。
「ん……あん……」
 掬い上げるように手を動かしながら、少女の反応を確かめた。妄想の中ではない、本物の女の子の反応に、晴彦は自分のモノがさらに昂ぶるのを感じていた。
 キス……は、いいだろうか。
「いいよ……」
 まるで察したように少女も晴彦に顔を寄せた。
「でも、ちょっとだけ……」
「うん」
 晴彦は頷き、小さく少女にキスし……すぐ離した。
 温かく柔らかい感触の余韻が名残惜しかった。
 片手でぎこちなく胸を揉みながら、もう一方の手が下に伸びる。
 彼女は拒まない。
 その確信が、晴彦にはあった。
「う……んっ……!」
 真っ赤な顔で唇を噛み締めながら、少女は晴彦のモノをさすり続ける。
「は……ぁ……」
 晴彦はゆっくりと息を吐きながら、指を最終地点に到達させた。
 湿っぽい下着が、指の圧力でさらに愛液を染み出させる。
「んっ……」
 少女がか細い呻き声を上げた。
 布地に触れた指をゆっくり擦りながら、さらに奥に進めると……。
「……!?」
 晴彦は、指先に感じた微かな振動に、思わず声を上げそうになった。
 さらに指で探ると、何やらコード……らしきものの感触もある。
 な……ちょ、ちょっと待て……これって。
「……ロ、ローター?」
 声を潜めながらたずねた。
「……そう」
 そう、って……。
 晴彦がどう答えたらいいのか迷っていると、横からいきなり伸びた手に手首をつかまれた。
「え――!?」
「おい、何やってるんだ!!」
 なんだか妙に正義感の燃えてそうなサラリーマン風の男が、晴彦の腕を捻り上げながら天井に向けて持ち上げた。
「この、痴漢が!! 子供のくせに、何やってんだ!!」
「ちょ、ちょっと待って!?」
 抗弁しようとするが、とっさに言葉が思いつかない。
 何で、こうなる!?
 少女を見ると、彼女も狼狽しているようだった。
 どうしよう、という目を晴彦に向けてくる。いや向けられても困る。
 電車の中の非難に満ちた目が、晴彦に集中していた。
「君、大丈夫だった!?」
 男は、少女に視線を向ける。
 電車がスピードを落とす。
「あ、え、ええと……」
 少女自身も思わぬ事態に言葉に詰まり。
 電車が停止、ドアが開き。
「今、こいつを鉄道警察に突き出すから――」と、男が言い。
 少女は屈み込むと晴彦の鞄を持って、もう一方の手で晴彦の手を掴んだ。
 これらが、ほぼ数秒のうちに起こった出来事だった。
 そして。
「ごめん、逃げよっ!」
 問答無用で人ごみを掻き分け逃走した。
「え? お、おい……!?」
 手を引かれた晴彦は、咄嗟にもう一方の手――サラリーマンが手首を掴んでいる――を捻って、振りほどいた。
「待て!!」
「待てといわれて待つ奴がいるか!!」
「うん、いない!!」
 やけに頼りない足取りで、少女も同意した。
 ああ、ところで。
「オレ達、どこ行くんだよ!?」
「知らない! 後で考えよっ!」


 最近整備されたばかりの公園は、人気も少なかった。
 晴彦は自動販売機で缶コーヒーとジュースを買うと、ベンチに戻った。
「……はい」
「ありがとう」
 ジュースを受け取った少女――八代明音(やしろ あきね)というらしい。学年は同じ二年生――の隣に晴彦も腰掛けた。
「……学校、はじめてサボっちゃった」
「オレも」
 互いに、気まずそうに笑みを浮かべた。
「で」
 晴彦は真顔に戻った。
「あれは、一体何事なんだ。君はあれか。痴女か」
「違うもん」
 明音はぷぅと頬を膨らませた。
「晴彦君が、私と同じだと思ったからだよ」
「同じって、何が……?」
「ポケットの中のそれ」
「!?」
 慌てて晴彦はポケットを庇った。が、するだけ無駄だった。
「かんのー小説、でしょ?」
 明音はクスクスとおかしそうに笑った。
「紙のカバーはね、近くで見ると透けて見えるの。だから、すぐ分かったよ」
「同じ、ね……」
 晴彦は、明音のスカートを見た。当たり前だが、中身は見えない。
「つまり、明音も……溜まってる、とか?」
「うんっ」
 明音のそれは、とてもさっき痴態を演じたとは思えない、清々しい笑みだった。
「晴彦君、苦しかったでしょ? 私も同じ。毎日がつまんない。だからね、手が当たった時、感じちゃったの。あ、この人も苦しんでる……だったら、楽にしてあげたいなって」
「その行動力には目を見張るものがあるけど……場所を考えて欲しかった……」
 もう、あの電車で学校には行けそうにない。
「ごめんね」
 本当にすまなそうに明音が謝ったので、晴彦は怒る気にもならなかった。
「そりゃ、もういいけどさ……」
「うん?」
「……それ、いつも入れてるの?」
 晴彦は、明音のスカートを指差した。より正確には、スカートの中身だ。
「う、うーん……いつもじゃないけど……しょっちゅう」
 思い出したのか、明音の頬が紅潮する。
「電車の中で入れてるのは、いつもの範疇に入ると思う」
「かもね……」
 明音は、例の上目遣いで晴彦を見た。
 潤んだ、欲情した目。
 手が伸び、晴彦の股間に触れてくる。
「ひょっとして……まだ、収まってない?」
「晴彦君も……でしょ?」

 公園のトイレは近代的で、清掃が行き届いているのか綺麗なものだった。
「でも……こんな所で?」
 女子トイレの蓋を閉じた便器に腰掛けながら、明音が尋ねた。
「外でするよりいいだろ? 制服姿でホテルって訳にもいかないし」
 ……そもそも、どうやって入るか分からないというのもあったりする。
「うん……じゃ、任せる」
 晴彦は、明音の太股の内側に手を滑らせると、大きく股を開かせた。
 かすかに震える太股の中程にベルトが締められ、そこからコードが伸びている。
 コードの先は、べっとりと染みを作ったショーツの中に潜り込んでいた。
「改めてみると、すごいいやらしいな……これ」
 晴彦は、そこを指でゆっくり強く押した。
「んっ…ぁ……あんまり…っ…みないで……恥ずかしいからぁ……」
「でも、見られたい?」
「うん……脱がせて……」
 明音に促されるまま、晴彦はゆっくりと明音のショーツに手を掛けた。明音も脱がせやすいように腰を浮かせて協力する。
「オレにばかり任されても困るから、出来れば明音も協力して欲しいな」
「んー、じゃあ、出来る限りの範疇で……」
 そうこうする内にも、明音の股間が剥き出しになる。
「……これだと、愛撫する必要も……ないかな」
 晴彦は上ずった声で、愛液にまみれたピンク色のローターを秘処から引きずり出した。
 かすかに開かれた秘唇からは桜色の粘膜が覗き、白濁した愛液を滴らせていた。
「……ジッと見ていい?」
「見たいの……?」
「ああ」
「じゃ……いいよ……」
 晴彦は指で秘唇を押し開き、明音の花びらを観察した。
「ふぁ……」
 何もしないままでも、明音のそこはヒクヒクと痙攣を繰り返す。
 ごく自然に顔が近付き、口が開いた。
 舌が、秘処に潜り込む。
「あっ、うんっ……!」
 明音に、グッと頭を押さえられた。
 晴彦は明音の腰に自分の腕を巻きつけ、自分の顔に明音の股間を引き寄せた。
「あ……あぁっ……は、晴彦くぅんっ……!」
 舌で肉襞を擦るように動かしながら、愛液を強く吸引する。
 そして、口の中に流れ込んでくる粘液を啜りこんだ。
「あっ、あっ、ああっ……すごい、すごいよぉっ……!」
 明音の身体が便座の上で何度も跳ねる。
 けれど、男の腕力で下半身をがっちり固められているため、逃げる事は出来ない。
「んっ……あっ……あんっ…あぁっ……はぁんっ……」
 次第に明音の力も緩み、晴彦のなすがままにされつつあった。
 残った理性で晴彦は、明音のそこから顔を離した。
「あんっ」
 口の周りが、愛液で糸を引く。
 いつまでも舐めていたい気分だったが、それよりももっと強い衝動に晴彦は駆られていた。
 頭のどこか冷静な部分で、自分が全然余裕の無いことを悟っていた。
 とにかく、早くここに自分のモノを挿れたかった。
「はーっ……はーっ……ね……ぇ、晴彦君。そろそろ……いーでしょ?」
「だな……」
 大きく深呼吸して、身体を持ち上げる。
 正常位になるように、明音に覆い被さる。
「んー……晴彦君さ、ちょっと怖い顔してるよ……?」
「そう?」
「余裕、ないもんね、お互い……」
「それは、言えてる」
 明音の言葉に、晴彦少し心が安らいだ。
 ジッパーを下ろし、自分のモノを取り出す。
 先走りの液が溢れるそれを明音の秘処に押し当てると、互いの粘液が糸を引いて伸びた。
「ぅ…ん……っ!」
 微かに身動ぎする明音。
 晴彦も、少し呼吸を整えた。
「頭の中、総動員してやるけど……痛かったらごめんな」
「へーき……初めて?」
 明音が濡れた目で、晴彦を見つめた。
「……まあ」
「じゃ、お互い様だね。しろーと同士」
「……」
 明音も初めて。その言葉の意味を晴彦は噛み締めた。
 ……今更だけど、本当に自分でいいのか?
 もっとも、ここまできてはもう引くことも出来ないが。
「嫌いな人とはしない。多分ね、長い付き合いになると思うよ、私達……」
 それは電車の中で晴彦に気付いた明音の直感であり、晴彦の予感でもあった。
 互いに顔をほころばせ、それから晴彦は腰を押し進めた。
「んっ…ああっ……!」
「力を抜いて……」
 言いながら、明音に口付ける。
「うん……」
 電車の中ではほんの一瞬だった分、長く明音の唇の感触を味わうように長く続ける。
「あ……もっと、キスして……」
 不慣れなキスが、次第にスムーズになっていく。
 舌を絡めあい、晴彦は明音の唾液を啜り、お返しに彼女の口内に唾液を送り込む。
 晴彦の頭の中が、霞がかっていく。
「は……んう……晴彦君…っ…気持ちいい?」
「ああ……」
 唇だけでも充分すぎる。
 が、まだ残る理性を腰に集中させ、晴彦はさらに腰を突き入れた。
「んうっ!!」
 微かな抵抗を感じた後、明音が痛苦に目を瞑った。
「くっ……ぅ……は、入った……?」
「うん……すご……全部入ってる……」
 晴彦と明音は一緒に繋がっている部分を見た。
 晴彦のモノが根元まで、明音の中に埋まっていた。繋がっている部分からは、一筋の血がスカートに染みを作っていた。
「っ……はあー……」
 明音は大きく息をついた。
「ん……ま、まだ動かないでね…痛いから……」
「っていうかオレも今動くとやばい……」
 明音の秘処の中は動かなくても、充分すぎるほどの刺激を晴彦に与えていた。ヌルヌルとした粘膜が絶えず晴彦のモノを締め付け、ちょっと動いたでも竿全体に舐めるような反応を与えてくる。
「気持ちいいの……?」
「シャレにならない……想像してたより、ずっとすごい……」
 晴彦の呻き声に、明音も安堵の吐息を漏らした。
「よかった……我慢できなくなったら言ってね。私も言うから……」
「遠慮はなし?」
 顔を寄せながら晴彦が尋ねると、明音は返事をキスで返した。
「そう……ん……こっちは…ゆっくりなら……いいかも。あ、ゆっくりだからね、ゆっくり」
「こう……かな」
 晴彦は、慎重に腰を揺すり始める。
 すぐにでも射精しそうなのを騙し騙ししながら、少しでもこの感覚が続くように。
「ん……んん……それぐらいなら……あ……あぁっ……」
 明音の声の響きが痛いだけのモノでない事に、晴彦は気付いていた。
「反応、いいな」
「う、ん……多分……」
「ずっと、これ使ってたから?」
 晴彦は、傍らに置いていたピンクローターを明音に見せた。
「だと……思う……」
 かぁっと明音は顔を赤らめながら、肯定する。
「欲しいか?」
「……う、うん……欲しい」
「けど、オレも余裕ないし……ここな……」
 晴彦は、ローターを震わせながら明音の服の中にそっと忍び込ませた。
 滑らかな肌の上を滑り、ブラジャーを手でたくし上げ、指で感じた先端にそれを押し当てる。
「あ! はあぁっ!」
 ビクン、と電流が流れたように明音の身体が震え、中が強く晴彦のモノを締め付けた。
「くぅっ……すごい締め付け……!」
 一気に晴彦の感度も跳ね上がり、すぐにでも射精しそうになる。
 ゆっくりと、だが奥を感じた時は力を込めて、明音を責め立てた。
「は、ぁ……す、すごい……あ……あぁんっ!」
 明音が晴彦にギュウッとしがみつきながら、声を上げる。
 晴彦は明音の一番奥に先端を押し付けると、小刻みに腰を揺らし始めた。
 ただそれだけで、晴彦はどんどん追い詰められていく。
 夢中になって、明音の唇を吸い、胸にローターを押し付けながら直に揉む。
「あ、あっ、ああっ……あはぁあっ!」
 明音も感極まったように、その感覚を味わっていた。
「出すぞ……明音」
「う、ん……っ……出してぇ……いっぱい、私の中に……っ」
 晴彦が呟くと、明音は彼の腰に足を巻きつけた。
「っておいっ!?」
 晴彦は外に出すつもりで言ったのだが、このままだと……。
「欲しいの……晴彦君はぁっ…したくない? 女の子の中……いっぱい膣出し……っ」
 頬を紅潮させながら誘われると、逆らうだけの理性は晴彦には無かった。
「……安全日なんだろな、おい」
 一応、聞く。
「んっ……あ……んんっ……あ、あんっ……はぁんっ!」
 それが『肯定』なのか『分からない』なのかは、晴彦には分からなかった。
「く、うぅっ」
 ただ最後に、力強く明音の奥を突きながら精液を中にたっぷり注ぎこんだ。
 ただ、その達成感が、晴彦を支配していた。
「あ、あああぁぁーーーーーっ!!」
 明音も大きく身体を震わせながら、それを受け止める。
「ん……あぁっ……! ま、まだ……出てるぅ……」
「ああ……ごめん、止まらないんだ…っ…」
 脈動する晴彦のモノは、断続的にまだ精液を噴き出し続ける。
 胎内に収まり切らない白濁液が、接合部分から滲み出してくる。
「すごい……こんないっぱいなんだ……」
 子宮を叩く熱い液体の迸りに、明音はうっとりと呟いた。
 やがて、互いの衝動が過ぎるとぐったりと身体を脱力させた。
「は、ぁ……はぁー……」
「ん……」
 晴彦は明音と繋がったまま、彼女の身体を起こした。
「あん……」
 晴彦自身が逆向きに便器に座り、座位の形で結ばれる。
「ありがと……あのね、晴彦君」
「うん?」
「また……しようね?」
「そうだな……って、『また』?」
「『まだ』かな。もうちょっと、気持ちよくなれそうだから、頑張ってくれる?」
「ああ、オレもしたいから……」
「ね?」
 晴彦と明音は見詰め合うと小さく笑い、軽くキスをしあった。


 三時限目から晴彦が学校に出ると、無断欠席がバレていた。
 とりあえず、体調不良で公園で休んでいたと嘘をつくと、意外にあっさりそれは通じたようで、家に帰ってからもむしろ心配されたぐらいだった。
 そして、翌日。
 晴彦は、やや早い目に家を出るべく部屋で準備を始めた。
 理由は単純で、とりあえず通学に自転車を使う事にしたのだ。
 その気になればバスも使える。
 本棚から官能小説を一冊抜き出し、ポケットに入れる。
 部屋を出ようとしたとき、ポケットの携帯電話がメール着信を知らせた。
「あれ?」
 相手は、明音だった。
 内容は一言、『そと』とだけ届いていた。
「なんだなんだ?」
 意味不明なメールに戸惑いながら、晴彦は玄関を出た。
 そこには、黒塗りの高級車が待機していた。
 しかも。
「やっほー! はっるひっこくーん!」
 後部座席でぶんぶんと手を振る明音がいた。
「って、えええぇぇっ!?」
「ほらー、早く乗る!」
 明音はドアを開いて、晴彦を誘った。
「あ、ああ……」
 晴彦が乗ると、車は驚くほどの静かさで発進した。
「……で、これは一体、どういう事?」
「だって、電車乗れないのは私も一緒でしょ? 元々うちの親、車で通学を希望してたし、ちょうどよかったの」
「それは……よかったのかもしれないけど」
 なんで、こんな高級車。
「うち、お金持ちだもん。清麓学院の生徒の中じゃ、大した事ないけど。それにね」
「うん?」
「学校に着くまで楽しめるでしょ?」
「楽しめるって……」
 晴彦は、ゴクリと唾を飲んだ。
「いいのか?」
「したくない?」
「したい」
 即答だった。
「でも……」
 晴彦は、運転席に視線を向けた。さすがにこの状況でするのは躊躇われた。
「あ、運転手は気にしないでいいよ? 樋山さんは私の味方だから」
 帽子を被った初老の運転手は、軽く晴彦に会釈した。
「望月様、お嬢様をよろしくお願いします」
「は、はぁ……」
 運転席と後部座席の間にあるシェードがせり上がって簡単な個室になると、明音は晴彦にしなだれかかりながら股間に手を伸ばした。
「今日は、バナナで練習した成果、試すからねっ」
「なら、オレも色々したいな」
 言いながら、晴彦はポケットから文庫本を出すと、座席の上に放り投げた。
 これからはもう、どうやら本は必要なさそうだった。


<おしまい>

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