日曜日のライブラリ






 日曜日、昼下がりの図書館。
 この日、私、山住渚(やまずみ なぎさ)と谷口清澄(たにぐち きよすみ)先輩は、ここで過ごすことにした。
 安上がりのデートだ。
 ……今日は、互いの家に両親が在宅中なので、表向きは健全なデートという事になる。
 あくまで、表向きの話だけど。
 先輩とは、読みたい本のジャンルが違っていたので、しばらくは別行動して後で合流する事となった。
 で。

 脚立に足を乗せ、さらに背伸びをする。
「よ、よいしょ……」
 それで、ようやく指先が届いた。
 けど、ただでさえ力の入らない足元が不安定になり……。
「っと、と、と?」
 後ろに倒れそうになる。懸命に体勢を整えようとしたけど、間に合わない。
「――と」
 止まった。
 背中を、誰かが支えてくれたみたい。
 これは――
「せ、せんぱ――」
「あなた、大丈夫? 息が荒いわよ?」
 違った。綺麗な女の人だった。
 女子大生ぐらいだろうか。
 ストレートのワンレングスで、スタイルもいい。
 服装も決まっている。
「す、すみません……ちょっと体調が優れなくて」
 身体を預けっぱなしにしとくのもあんまりなので、私は脚立から降りた。
 もちろん、本はしっかりと手に持って。
「ああいう時は、誰か他の人に頼むべきだと思うけど」
 頼れる人はいるにはいるんだけど……。
「おい、そっちは資料――」
 背後から、その頼れる人の声が聞こえてきた。
 今度こそ。
「先輩」
 振り返ると、そこには先輩が大量の本を抱えて立っていた。
 それは分かるけど、何故か渋面だった。
「げ」
「お前か」
 私は先輩と、女の人を交互に見やった。
「……知り合い、ですか?」


 私と女の人は互いに自己紹介をし、三人で真四角の図書テーブルを囲んだ。
 う、うー……座るの、辛いんですけど、今。
 ……先輩の知り合いのこの人、レイコさんは、驚いた事にまだ高校生だった。
 つまり、先輩と同じ歳。
 いや、先輩も服装によっては大学生ぐらいに見えるから……あ、あんまり考えたくない想像をしてしまった。
「学区が同じ。幼馴染みなんだよ」
 先輩は苦虫を潰したような顔のまま、説明してくれた。
「何故かね、ずっと同じクラスでしかも席が隣同士。安心して。付き合ってた訳じゃないから」
「ああ。そんな歴史は一切ない」
 ……そんなに顔に出やすいのだろうか、私って。
「で? 何だって休みの日に図書館にいるのよ、アンタは」
「それはこっちの台詞だ。どうせ、学校でも図書室にいりびったっているくせに」
「惜しい。うちは図書室じゃなくて図書館。わざわざ、休みの日に電車乗り継いで学校まで行く事ないでしょ」
「つまり、本の山に埋もれているという指摘自体は間違っていなかった訳だ」
 先輩に指摘され、レイコさんの綺麗な顔がヒクッと引きつった。
「……お互い様でしょうが」
 そして、急に私の方を向いた。
「まだ、図書委員やってるでしょ、こいつ」
「は、はい」
 というか、私と出会ったきっかけが正にそれなんですけど。
「図書委員長です。……ちなみに、私も、図書委員ですけど」
 それだけの関係ではない、と心の中で付け加えておく。
「成長してないわね、アンタ」
「それこそ、お互い様だ――どうせ、お前もその口だろうが」
 何だか、似た者同士だなぁ。
 などと思いながら、私は二人のやり取りを眺めていた。
 しばらくして。
「――と、私はそろそろ退散するわね」
 レイコさんは立ち上がった。
 それから私と先輩を交互に見やって。
「……ふむ」
 なにやら首を傾げてから、先輩に耳打ちした。
 小声なので、私には聞こえなかった。
「……」
 いきなり、先輩がガクッと突っ伏した。
「せ、先輩!?」
「……き、気にするな。大した事じゃない」
 動転する先輩にレイコさんはおかしそうに笑って、
「それじゃお二人さん、さようなら」
 ヒラヒラと手を振って、去って行った。
「……」
「……」
 突っ伏したままの先輩と、とりあえずどうしていいか分からない私。
 ……ええと。
「……先輩、何言われたんですか?」
「あんまりお前を苛めないように、だとさ。気付かれてたぞ……多分」
 私の顔が、ボッと火照った。
 先輩はポケットからリモコンを取り出すと、無言でスイッチを切った。


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